Dhrupad
Dhrupad
North Indian Classical Music
〜 北インド古典音楽スタイル 〜
北インド古典音楽には、大別してふたつの大きな様式があります。
現代古典音楽の「カヤール Khyal」と、古楽の「ドゥルパド Dhrupad」です。
20世紀後半にビートルズとラヴィ・シャンカールで一躍有名になった弦楽器シタールや、華麗な打楽器タブラなどは、カヤールの楽器で、
熟達した奏者の超絶技巧は、驚くべきものです。
現在、おそらく99%以上の古典音楽家がこのカヤール様式の奏者なのですが、
もうひとつの様式であるドゥルパドも、音楽家の数は少ないながら、今日までその伝統が続いてきました。
ドゥルパドは、セミクラシックもあわせると数種類ある現存する古典音楽の様式の中で、最古のものでありもっとも重厚なスタイルです。
15,6世紀、ムガール朝で宮廷音楽に迎えられた頃が、ドゥルパドの一番興隆した時代ですが、
もともとは、ヒンドゥーの宗教的な求道の音楽でした。
諸説ありますが、9〜13世紀のあいだに登場したスタイルと言われています。
インドでは、Performing Arts(演奏・上演する芸術分野)をサンギートと言い、声楽/器楽/舞踊の3ジャンルから成り立ちます。
その中で一番深いとされているのが声楽で、ドゥルパドではこの声楽が基本とされ、大部分の演奏家が声楽家です。
ドゥルパドで演奏されるメロディ楽器としては、弦楽器ルドラ・ヴィーナーが一番有名で、その他、ヴィチットラ・ヴィーナー、スルバハルなどがありますが、ドゥルパドは、演奏・表現スタイルなので、技術的にドゥルパド風に演奏することが可能な楽器なら、どんな楽器でもかまいません。
現代では、チェロでドゥルパド演奏される方もいらっしゃいます。
ですが、器楽奏者と言えど声楽に通じていなくてはならず、また、楽器を通じても"歌う"ことが大切とされています。
ドゥルパドの打楽器は、タブラの前身である両面太鼓パカーワジであり、伴奏及び独演の両方で演奏されます。
ヒンドゥー教では、求道の道をヨーガといいます。
ヨーガとは、もともと、統合/結合/ユニオンという意で、真我(神)と、分離してしまったエゴを、再統合するための修行の道と言えるでしょう。
それには、色々な方法があります。
大別すると、バクティ(献身・親愛)の道、それと、ニャーナ(またはジニャーナ/ギャーナ、智慧)の道です。
その他、ハタ・ヨーガ(肉体を整える基礎)や、クンダリニー・ヨーガのひとつ「ナーダ(音)・ヨーガ」という、肉体的なジャンルもあります。
ルドラ・ヴィーナーの巨匠:故ウスタド・ジア・モヒウッディーン・ダーガルは、ドゥルパド音楽は、ニャーナの道、すなわち、真実の自己に関する智慧を得るための道だと宣言しました。
また、歌い方の核はナーダ・ヨーガでありますし、音楽を通じて神を讃え愛するバクティの道でもあるのです。
実際の演奏では、歌い手は、ラーガと呼ばれる旋法をほぼ即興で展開していきます。
これは、 ドゥルパド・カヤールを問わず、インド古典音楽に共通しています。
数千あるとも言われるラーガの、そのひとつひとつには名前があり、演奏されるべき時間や季節、情感が指定されており、
宇宙の原理と結びついているとされます。
ひとつのラーガの演奏は、ふたつのパートから成り立ちます。
「アーラープ」と呼ばれる歌い手の独演部分と、パカーワジというドゥルパドの太鼓との合奏部分です。
アーラープでは、ドゥルパドの歌い手は、意味を持たない「シラブル」(≒音節)を使ってそのラーガの宇宙観をゆっくり即興で示していきます。
一方、合奏部分では、宗教的な歌詞が登場し、歌詞を使って即興して行きます。
ドゥルパド。
「瞑想的なアーラープ」と「祈りの合奏部分」の全編を通じて、「ラーガの宇宙」と、深くゆったりとした「ドゥルパドの時間」がたち顕われる音楽なのです。